
福岡県北九州市戸畑区、JR戸畑駅から徒歩5分にあるパン屋、The 884 Bakeryです。
朝の食卓に並ぶ香ばしいトーストや、お昼休みにほおばるお惣菜パン、おやつに嬉しい甘い菓子パンまで、私たちの毎日にパンは寄り添っています。店頭に並ぶたくさんの品を眺めていると、「このパンとあのパンは、食感や風味がどうしてこんなに違うのだろう」と疑問に思うことはありませんか。外側がパリッとして中がもっちりしたもの、ふんわりととろけるような柔らかさを持つもの、素朴な酸味と深いコクを味わえるものなど、個性は実に豊かです。
パンの味わいや食感を決定づける大きな要素が、粉や水といった原材料の配合、そして「製法」と「発酵」の違いです。同じ小麦粉を使っていても、生地の捏ね方や発酵の取り方、焼き上げる温度によって、まったく異なる表情に仕上がります。ご自宅でパン作りに挑戦されている方にとっても、製法の違いを理解することは、思い通りのパンを焼き上げるための手がかりになります。
今回は、パン職人歴17年の歩みの中で培ってきた視点を交えながら、パンの種類と製法ごとの特徴、生地が育つ仕組みについて詳しく紐解いていきます。朝夕の風に涼しさが混ざり始める季節にぴったりなパンの選び方や、生地の奥深い世界を一緒に巡ってみましょう。
生地作りの違いで広がるパンの種類と食感の秘密
パン作りにはいくつかの代表的な製法が存在します。パン屋さんでよく耳にする「ストレート法」や「中種法(なかだねほう)」、「湯種法(ゆだねほう)」といった言葉は、小麦粉と水分、酵母をどのように合わせていくかという工程の違いを指しています。
日常の食卓で親しまれている食パンの製法や種類について、中種法と湯種法の特徴を比較してみると、その違いがとてもよく分かります。中種法は、使用する小麦粉の半分以上をあらかじめ水や酵母と合わせて発酵させ、後から残りの材料を加えて本捏ねを行う手法です。発酵に時間をかける分、生地がしっとりと柔らかく仕上がり、時間が経ってもパサつきにくいという特徴があります。ボリューム感のある柔らかな食パンを焼く際によく用いられています。
一方で、湯種法とストレート法の違いを知ることで、パンの種類ごとの食感への理解がぐっと深まります。湯種法は、小麦粉の一部に熱湯を加えてあらかじめ捏ね、小麦粉のデンプンを糊化(アルファ化)させてから本生地に混ぜ合わせる製法です。この工程を経ることで、水分をたっぷり抱え込んだ、吸い付くような「もっちり・しっとり」とした独特の弾力が生まれます。甘みを自然に引き出す効果もあるため、トーストはもちろん、そのままちぎって食べたくなるようなリッチな食パン作りに選ばれる傾向があります。
最も基本となるストレート法(直捏法)は、すべての材料を一度にボウルに入れて捏ね上げ、発酵から焼成までを進める手法です。工程がシンプルなため、小麦本来のストレートな香りや風味、発酵のフレッシュさをダイレクトに楽しめます。ただし、生地の水分保持力が繊細なため、焼き上がりのタイミングや日々の気温変化に仕上がりが左右されやすいという一面も持ち合わせています。
季節の変わり目、特に9月のパン作りでは過発酵を防止する温度管理や製法の工夫が欠かせません。日中は気温が高くても朝晩は涼しくなる時期は、室温の変動が生地の発酵速度にダイレクトに影響を与えます。少し目を離したすきに発酵が進みすぎてしまい、生地のコシが抜けたり、焼き色が薄くなったり、酸味が強くなったりすることがあります。仕込み水の温度を1度単位で細やかに調整し、生地の温度が高くなりすぎないよう配慮することが、ふっくらとした美しいパンに仕上げるための大切なポイントです。
また、秋は旬の食材を使ったパンの種類が豊富になる時期でもあります。ほっくりとした栗やかぼちゃを生地に練り込んだり、自家製のフィリングとして包み込んだりする製法では、素材に含まれる水分量や糖度を見極める感覚が求められます。季節の味覚の濃厚な甘みと、じっくり発酵させた生地の香ばしさが合わさることで、秋ならではの豊かなひと皿が完成します。
秋の過ごしやすい気候は、自家製酵母を用いたパンの種類や製法を試すのにも適しています。夏の強い暑さが落ち着くこの時期は、果物や穀物から起こす酵母の管理がしやすく、じっくりと安定した発酵を促すことができます。レーズンやりんご、旬の果実から時間をかけて育てた酵母で焼くパンは、噛むほどに広がる複雑な旨味と、どこか懐かしい素朴な香りを届けてくれます。
ハード系から食事パンまで|製法と原材料が織りなす奥深い世界
パン売り場の中で、ひと際力強い存在感を放っているのがハード系パンです。ハード系パンの種類一覧を眺めてみると、発酵や製法の違いによって、それぞれに独自の文化と味わいが根付いていることが伝わってきます。材料は基本的に小麦粉、水、酵母、塩という至ってシンプルな構成だからこそ、生地の扱い方ひとつで全く異なるパンに焼き上がります。
よくお客様から尋ねられるのが、「カンパーニュとバゲットの違いは何か」という疑問です。どちらもフランスを発祥とする伝統的な食事パンですが、生地の配合や製法に明確な個性があります。バゲットは「杖」を意味し、棒状に細長く成形されることで、外側の皮(クラスト)のパリッとした香ばしい面積を最大限に味わうパンです。気泡が大きくボコボコと空いた内相(クラム)は、みずみずしく軽やかな口どけを持っています。
これに対してカンパーニュ(田舎パン)は、丸く大きく成形されることが多く、粉の配合にも工夫が凝らされています。小麦粉だけでなくライ麦粉や全粒粉をブレンドすることが一般的で、自然発酵種(ルヴァン種など)を用いてじっくりと時間をかけて熟成させます。そのため、どっしりとした食べ応えと、ほどよい酸味、そして日持ちの良さが魅力です。大きく焼くことでクラムのしっとり感が長く保たれるため、薄くスライスしてバターを塗ったり、スープやシチューに合わせたりと、食卓の主役としても活躍します。
ヨーロッパのパン文化をさらに深く知る上では、ドイツパンとフランスパンの種類や製法、原材料の違いにも注目したいところです。フランスパンが小麦の豊かな香りとクラストの軽快な歯ごたえを追求するのに対し、ドイツパンは寒冷な気候でも育つライ麦を主原料に用いる文化が育ちました。ライ麦には小麦のように強いグルテンを形成する性質がないため、サワードウブレッドの製法に代表されるライ麦パンの種類では、伝統的なサワードウ(乳酸菌と酵母の共生発酵種)を使うことが不可欠です。この乳酸菌の働きによって特有の爽やかな酸味が生まれ、生地の骨格が保たれ、重厚で深みのあるパンに焼き上がります。
近年、パン愛好家の間で注目を集めている高加水パンも、製法の面白さを体感できるパンのひとつです。一般的なフランスパンの水分量が粉に対して65〜70%前後であるのに対し、高加水パンでは80%以上、場合によっては粉と同量近い水分を抱え込ませます。高加水パンの種類をご自宅の作り方で挑戦する際の製法のコツとしては、無理に強い力で捏ねようとせず、時間をかけて生地を折りたたむ「パンチ」を重ねながら、グルテンを優しくつないでいく作業が挙げられます。水分をたっぷりと含んだ生地は、焼き上げると内側がまるでゼリーやわらび餅のようにプルプル、モチモチとした唯一無二の食感へと変化します。
ハード系のパンは、一見すると素朴で硬い印象を持たれがちですが、丁寧に引き出された小麦の甘みと発酵の旨味が凝縮されています。薄く切ってチーズをのせたり、お気に入りの具材を挟んでサンドイッチにしたりと、日々の食卓で自由なアレンジが楽しめる点も魅力です。
職人が生地と向き合う日々と、秋の食卓に寄り添うパンの楽しみ方
どれほど製法や理論を頭で理解していても、実際のパン作りは思い通りにいかないことの連続です。パンは工業製品ではなく、生きている酵母とともに作り上げるものだからです。
気温が1度変わるだけでも、湿度が少し高くなるだけでも、小麦粉の吸水具合や発酵のスピードは変化します。だからこそ職人は、時計の針や数値だけに頼るのではなく、まるでパンと「会話する」ように、生地の声に耳を傾けながら一つ一つ焼き上げています。手のひらで触れたときの生地の弾力、指先を吸い付くように押し返してくるしなやかさ、発酵室の中でふくふくと膨らむ息づかい。その小さな変化を見落とさず、その日の生地が最も輝くタイミングを見極めて窯に入れます。「美味しいのは当たり前」という信念を胸に、常に最高の状態を追い求める作業は、日々尽きることのない探求の旅でもあります。
パンが主役となる素敵な時間をお届けするために、店頭でのさりげない心地よい接客も大切にしています。トレイを手にパンを選んでいる時間は、日常の中のささやかな楽しみのひとつです。焼き上がりの香ばしい匂いに包まれながら、その日の気分や合わせたい料理に合わせてパンを選ぶひとときは、心をじんわりと満たしてくれます。
これからの秋が深まる季節には、濃厚な具材を挟んだサンドイッチや、芳醇なバターが香るミニクロワッサン、生地そのものの旨味が際立つフランスパンや明太フランスなどが食卓を豊かに彩ってくれます。甘いおやつをお探しなら、とろりとしたクリームパンや、ほっと心が和むあんぱん、ふんわり甘いメロンパンもおすすめです。噛みしめるほどに風味が増すベーグルは、旬の野菜やスープと合わせた朝食にもよく合います。
ご家庭でパンを召し上がる際には、ほんの少し温め直すだけで、焼きたてに近い香りと食感がよみがえります。ハード系のパンなら、霧吹きで表面に軽く水をまとわせてからトースターで短時間温めると、外側の皮のバリッとした心地よい食感が復活します。食パンや菓子パンは、トースターの余熱を利用して温めると、中の水分を逃さずしっとりふんわりとした食感を楽しめます。
生地の製法や酵母の働きを知ることで、いつものパン選びはもっと楽しく、味わいはさらに深くなります。パンの種類や美味しい温め方について気になるときは、お気軽にスタッフまでお声かけください。今日の食卓をあたたかく彩るお気に入りのひとつを、丁寧に見つけるお手伝いをいたします。


