こんにちは。福岡県北九州市戸畑区のパン屋、The 884 Bakeryです。

日差しが強くなり、汗ばむ季節になると、食生活や選ぶ食べ物にも変化が生まれます。主食として毎日の食卓に欠かせないパンも、季節に応じた楽しみ方や、この時期だからこそ意識したい扱い方があります。パンの美味しさは、小麦粉や酵母といった素材だけでなく、職人が用いる「製法」によって大きく変化します。同じ材料を使っていても、発酵の時間や温度、水分の含ませ方によって、全く異なる食感や風味のパンが焼き上がるのです。

今回は、パンの種類と製法の奥深い関係を紐解きながら、夏の季節を快適に、そして美味しく乗り切るためのパン選びや保存のヒントをお届けします。

夏の食卓を彩るパンの製法と種類ごとの魅力

パン作りにおいて、発酵のプロセスは仕上がりを左右する要の工程です。特に気温と湿度が高くなる夏の時期は、生地の温度管理が難しくなります。そこで活躍するのが「オーバーナイト製法(冷蔵発酵)」です。

時間をかけて旨味を引き出すオーバーナイト製法

一般的に、パンの生地は室温や発酵器の中で比較的短い時間で発酵させますが、オーバーナイト製法では捏ね上げた生地を冷蔵庫に入れ、一晩(約12〜24時間)かけて低温でゆっくりと発酵を進めます。
夏の暑い時期は、室温に置いておくとあっという間に発酵が進んでしまい、生地がだれてしまったり、酸味が出すぎてしまったりすることがあります。冷蔵発酵を取り入れることで、イーストの活動を穏やかに抑え、生地を休ませながら熟成させることができます。
この製法で引き出される最大のメリットは、小麦粉が十分に水分を吸収し、でんぷんが糖化して引き出される自然な甘みと、しっとりとした質感です。時間が経ってもパサつきにくく、味わい深いパンに仕上がります。

ご家庭で「こねないパン」を焼く際にも、夏の室温発酵を避け、冷蔵庫発酵を活用するレシピを選ぶと、失敗しにくく扱いやすい生地になります。パンの種類としては、じっくり旨味を蓄えたいバゲットや食パンなどに向いている製法です。夜に生地を仕込んで冷蔵庫に入れておけば、翌朝は成形して焼くだけなので、朝から焼き立てを楽しめるのも嬉しい特徴です。

伝統的な仕込み方の違い:ポーリッシュ法と中種法

パンの製法には、一度にすべての材料を捏ね上げる方法だけでなく、あらかじめ一部の小麦粉と水、酵母を合わせて発酵させておいた「種」を使う方法もあります。その代表例が「ポーリッシュ法」と「中種法」です。

この2つの製法の違いは、種の水分量と発酵時間にあります。
ポーリッシュ法(液種法)は、小麦粉と水をほぼ同量(1:1)で合わせ、ゆるい液状の種を作って発酵させます。水分が非常に多いため、乳酸発酵が進みやすく、焼き上がりはしっとりと瑞々しい食感になります。また、独特のフルーティーな香りと深みのある味わいが生まれ、クラスト(皮)はパリッと、クラム(内相)は気泡が大きくもっちりとした仕上がりになります。主にフランスパンやハード系のパンに用いられます。

一方で中種法は、使用する小麦粉の半分以上(一般的には70%前後)と水、酵母を捏ねて、一度ボリュームが出るまでしっかりと発酵させてから、残りの材料を加えて本捏ねを行います。中種法で焼いたパンは、生地の伸びが非常に良くなり、焼き上がりのボリュームが格段に出やすくなります。食感はふんわりと柔らかく、ソフトできめ細かい仕上がりになるのが特徴です。また、パンが硬くなるスピードが遅く、翌日になっても柔らかさが持続しやすいという利点があります。毎日食べる食パンや、ふんわりとした菓子パンなどに適しています。

このように、どのような食感や風味を目指すかによって、職人は製法を使い分けています。

水分を限界まで抱きかかえる「高加水パン」の魅力

近年注目を集めているのが「高加水パン」と呼ばれるジャンルのパンです。一般的な食パンやフランスパンの水分量が小麦粉に対して65〜70%程度であるのに対し、高加水パンは80%以上、時には100%近い水分を加えて作られます。
その代表的な種類が、イタリア生まれの「チャバタ」や、フランス生まれの「リュスティック」です。

これら2つの製法と特徴の違いをご存知でしょうか。
チャバタはイタリア語で「スリッパ」を意味し、その名の通り平べったい形をしています。オリーブオイルが練り込まれることが多く、しっとりとしていながらも、どこか歯切れの良い軽さがあります。サンドイッチのパンとして優秀で、生ハムやチーズ、トマトなどを挟むと、具材の水分を適度に吸い込んで一体感のある美味しさを楽しめます。

一方、リュスティックはフランス語で「素朴」「野暮ったい」といった意味を持ちます。成形(丸めたり形を整えたりする作業)をほとんどせず、発酵した生地をただ四角く分割しただけの状態で天板に乗せて焼き上げます。生地に触る回数を最小限に抑えることで、生地の中に大きな気泡をしっかりと残し、外側はパリッと香ばしく、内側はまるでみずみずしいお餅のような、弾力のある独特の食感に仕上がります。
どちらも水分がたっぷり含まれているため、夏の暑い日でも喉越しが良く、食べやすいという特徴があります。

夏のパンライフを快適にするお悩み解決と保存方法

気温が高く湿度も高い日本の夏は、パンの保管や、ご家庭でのパン作りにおいて、いくつかの工夫が必要になります。

湯種食パンの夏の傷みやすさと対策

もちもちとした独特の食感と、ほんのりとした甘みで人気の「湯種食パン」。湯種製法とは、小麦粉の一部に熱湯を加えて捏ね、小麦粉中のでんぷんを「糊化(α化)」させてから本生地に混ぜ合わせる製法です。でんぷんが糊化することで水分をしっかりと抱え込むため、驚くほどしっとり、もちもちとした食感に仕上がります。

しかし、この「水分が多い」という特徴こそが、夏の時期に傷みやすくなる原因でもあります。水分と高い室温、そして湿度は、カビや雑菌にとって繁殖しやすい環境です。
夏の湯種食パンを美味しく、安全に食べ切るための保存方法をご紹介します。

おすすめなのは、購入した当日、またはスライスした直後に「冷凍保存」することです。
常温のまま数日放置してしまうと、すぐに傷んでしまうだけでなく、パンの水分が抜けて美味しさが損なわれてしまいます。
保存手順は以下の通りです。

  1. 1枚ずつ丁寧にラップで包みます。空気に触れさせないよう、ぴったりと密閉するのがコツです。
  2. さらにジッパー付きの保存袋に入れ、しっかりと空気を抜いて口を閉じ、冷凍庫に入れます。
    食べる時は、凍ったまま予熱しておいたトースターで一気に焼き上げてください。外側はカリッと、内側は湯種特有のもちもち感がしっかりと戻り、焼きたてに近い味わいを再現できます。

自家製酵母やサワードウを夏に楽しむコツ

ご家庭でこだわりのパン作りをされている方にとって、夏は酵母の管理が一段と難しくなる季節です。「自家製酵母パン」や、乳酸菌と野生酵母を共生させた「サワードウブレッド」は、独特の風味や酸味、奥深いコクが魅力ですが、夏の過発酵には注意が必要です。

気温が高いと、酵母の活動スピードが急激に上がります。捏ね上げ温度(捏ね終わった直後の生地の温度)が高くなりすぎると、捏ねている最中から発酵が始まってしまい、生地のコシがなくなったり、だれてしまったりします。
対策としては、以下の点を意識してみてください。

  • 仕込み水には氷水を使用し、粉やボウルもあらかじめ冷やしておく。
  • 自家製酵母パンは夏の過発酵を避けるため、捏ね時間をいつもより少し短めにするか、捏ねる際の摩擦熱を考慮して優しく扱う。
  • 発酵の進行を注意深く観察し、早めに冷蔵庫へ移して低温発酵に切り替える。

また、サワードウブレッドを作るための「夏のスターター(発酵種)」の管理方法も工夫が必要です。室温に放置しておくと、過剰に酸っぱくなってしまったり、種が傷んでしまったりすることがあります。
スターターは基本的に冷蔵庫の野菜室など、冷えすぎず安定した温度の場所で保管し、種継ぎ(餌やり)の間隔をいつもより短めにするか、使う直前に数回に分けてリフレッシュさせることで、元気でバランスの良い状態を維持しやすくなります。

夏を乗り切る!冷たいスイーツパンとビールのお供

暑さで食欲が落ちがちな季節でも、食べ方や選び方を変えるだけで、パンは一気に魅力的なメニューに変わります。

ひんやり贅沢な「冷やして美味しいパン」

「暑い日に温かいパンはちょっと……」という時におすすめしたいのが、「冷やして美味しいパン」という選択肢です。
通常のパンは、冷蔵庫に入れるとでんぷんの老化が進み、パサパサと硬くなってボソボソとした食感になってしまいます。しかし、冷やして食べることを前提としたスイーツパンは、製法に工夫が凝らされています。

例えば、生地に生クリームやバター、卵をたっぷりと配合した贅沢なブリオッシュ生地や、デニッシュ生地、または湯種製法を応用して水分を多く保持させた生地などは、冷やしても硬くなりにくい特徴があります。
これらの中に、冷たいカスタードクリームや、ピスタチオクリーム、ホイップクリームなどをたっぷりと詰め込んだクリームパンやサンドイッチは、まるで冷たい洋菓子を食べているかのような満足感を与えてくれます。
冷たい麦茶や、すっきりとしたアイスコーヒーと一緒に、夏の涼やかなおやつタイムを楽しんでみてはいかがでしょうか。

ギルトフリーに楽しむ「焼きカレーパン」

夏の定番惣菜パンといえば、スパイシーな香りが食欲をそそるカレーパンです。しかし、一般的な揚げたカレーパンは、油分が多くて夏場には少し重く感じられることもあります。
そこでおすすめなのが、油で揚げずにオーブンで焼き上げる「焼きカレーパン」です。

製法上の違いとして、焼きカレーパンは生地の表面に薄くオリーブオイルを吹き付けたり、パン粉をまぶして焼き上げたりすることで、油で揚げなくてもサクサクとした心地よい食感を実現しています。
余分な油を吸い込んでいないため、カロリーオフでヘルシー。食べた後の胃もたれもしにくく、夏バテ気味の胃腸にも優しい仕上がりです。中のカレーフィリングも、スパイスを効かせたドライカレーやキーマカレーなど、水分を抑えた濃厚な味わいのものが多く、夏にぴったりの元気が出る味わいです。

夏の夜の楽しみに!ビールに合うハード系パン

一日の終わりに、冷えたビールと一緒にパンを味わうという、少し大人の楽しみ方もあります。おつまみとして優秀なのが、小麦の風味と力強い食感が特徴のハード系パンです。

ビールと合わせるなら、以下のような種類のハード系パンがよく合います。

  • フランスパン(バゲット): 薄くスライスして軽くトーストし、ガーリックバターを塗ったり、オリーブオイルと塩、またはチーズを乗せて。シンプルだからこそ、ビールのホップの苦味を引き立てます。
  • 明太フランス: ピリッとした辛みと、明太子の塩気、バターのコクが、パリッとしたクラストの香ばしさと絶妙にマッチします。一口サイズにカットすれば、ビールがどんどん進む極上のおつまみに変身します。
  • ベーグル(チーズやペッパー系): もちもちとした密度の高い生地は、噛めば噛むほど小麦の旨味が出てきます。ブラックペッパーやゴーダチーズが巻き込まれたベーグルは、炭酸の効いた冷たいビールとの相性が抜群です。

製法としては、やはり前述の「ポーリッシュ法」や「サワードウ」などで作られた、旨味の強いハード系のパンがおすすめです。香ばしく焼き上げられた皮の苦味と香りが、ビールのコクと同調し、至福のペアリングを演出してくれます。

北九州市戸畑区で、丁寧に焼き上げる本物のパンを

福岡県北九州市戸畑区、JR戸畑駅から徒歩5分ほどの場所にある「The 884 Bakery」では、職人が日々、パンと会話をするように生地の声に耳を傾け、一つひとつ丁寧にパンを焼き上げています。

「美味しいのは当たり前」という強い信念のもと、17年のキャリアを持つ職人が、その日の気温や湿度に合わせて仕込み水や発酵時間を微調整し、常に最高の状態のパンを皆様にお届けできるよう、追求を重ねております。

当店では、じっくり丁寧に作り上げる本格的なフランスパンや、人気の明太フランスなどのハード系をはじめ、冷やしても美味しいクリームパン、もちもち食感のベーグル、バター香るミニクロワッサン、定番のあんぱん、メロンパン、そして具だくさんのサンドイッチまで、多彩なラインナップをご用意しております。

お仕事帰りやお散歩のついでに、ぜひ一度「The 884 Bakery」へお立ち寄りください。私たちは、パンが主役となる特別な体験と、さりげなく心地よい接客で、皆様の日常に小さな幸せをお届けできるよう、心を込めてお待ちしております。季節に合わせた新しいパンとの出会いを、ぜひ店頭で楽しんでみてください。