
香ばしい香りと、一口かじった瞬間に広がる小麦の旨味。私たちの日常に寄り添うパンには、数多くの種類があり、それぞれ異なる製法によって独特の食感や風味が引き出されています。
特に、気温や湿度がぐっと上がる夏の時期は、パンの扱い方や発酵のプロセスに少し工夫を加えるだけで、おうちでのパン作りや購入したパンの美味しさが劇的に変化します。今回は、パンの種類や製法の違い、夏ならではの楽しみ方や保存のコツを詳しく紐解いていきましょう。
伝統的な製法とパンの種類の関係を知る
普段何気なく食べているパンですが、どのような工程を経て焼き上げられているかによって、その食感や香りは大きく異なります。まずは、代表的な製法の違いと、それによって生まれるパンの特徴を見ていきましょう。
ポーリッシュ法と中種法の違い!焼き上がりと食感の特徴
パン作りの伝統的な製法である「ポーリッシュ法」と「中種法(なかだねほう)」には、明確な違いがあります。
ポーリッシュ法は、別名「液種法」とも呼ばれ、使用する小麦粉の一部と水、ごく少量の酵母を同量(1対1の割合)で混ぜ合わせて、ゆるい液状の種(ポーリッシュ種)を作ります。この種を十分に発酵させてから、残りの材料と合わせて本捏ねを行います。液状で発酵が進むため、乳酸菌などの働きが活発になり、独特のしっとり感と深みのある風味が生まれるのが特徴です。焼き上がりの皮(クラスト)は薄くパリッと仕上がり、内側(クラム)は水分を含んでモチモチとした質感になります。フランスパンなどのハード系の種類によく用いられる製法です。
一方の中種法は、日本の食パンや菓子パン、ロールパンなどで広く用いられています。これは、使用する小麦粉の7割から8割程度をあらかじめ水と酵母で捏ねて数時間発酵させ、そこに残りの材料を加えて本捏ねを行う製法です。中種法で作られたパンは、生地の伸びが非常に良くなり、焼き上がりのボリュームが出やすくなります。きめが細かく、ふんわりとソフトな食感が長持ちする点が大きなメリットです。しっとりした柔らかさを追求したい場合には、この中種法が向いています。
高加水パン(チャバタ・リュスティック)の製法の違い
水分量を極限まで高めて作られる「高加水パン」も、根強い人気を誇る種類です。一般的なパンの水分量が粉に対して60%から65%程度であるのに対し、高加水パンは80%以上の水分を含ませて作られます。代表的な種類として、イタリア発祥の「チャバタ」や、フランス発祥の「リュスティック」があります。
チャバタはイタリア語で「スリッパ」を意味し、オリーブオイルを配合した生地を捏ねすぎずに発酵させ、平たく四角い形に成形して焼き上げます。皮は薄くて香ばしく、中は驚くほどもちもちとしており、サンドイッチのパンとしても優れています。
対してリュスティックは、成形時に生地をほとんど触らず、分割したそのままの状態で焼き上げるのが製法の特徴です。余計なガス抜きをしないため、生地の内部に大きな気泡がそのまま残り、非常に軽やかでありながら、みずみずしい口当たりが生まれます。成形の手間を省くことで、生地本来の水分を逃がさずに焼き上げることができます。
サワードウブレッドの種類と夏のスターター管理方法
野生酵母と乳酸菌を共生させた「サワードウスターター(発酵種)」を用いて作られるサワードウブレッドは、独特の酸味と奥深い風味が魅力です。ライ麦粉をベースにしたものや、小麦粉をベースにしたものなど、使う粉によっていくつかの種類に分かれます。
このサワードウを維持するためのスターター(種)の管理方法は、夏の時期に一段と配慮が必要になります。高温多湿な日本の夏は、酵母や乳酸菌の活動が活発になりすぎるため、室温に放置するとあっという間に過発酵になり、酸味が強くなりすぎてしまったり、種が傷んでしまったりします。
夏のスターター管理方法としては、給餌(リフレッシュ)を行う頻度を増やし、発酵がピークに達した段階で速やかに冷蔵庫の野菜室など、10度前後の涼しい場所に移動させることがポイントです。冷やすことで微生物の活動をなだらかにし、良好な状態を長くキープできます。
自家製酵母パンの夏の過発酵対策と捏ね時間
レーズンやリンゴなどから起こす自家製酵母パンも、夏場は管理が繊細になります。夏に起こりやすい「過発酵(発酵が進みすぎて生地の弾力が失われ、酸っぱくなる現象)」を防ぐには、事前の対策が欠かせません。
効果的な対策の一つが、捏ね時間の調整です。ミキシングを行う際、生地は摩擦熱によって温度が上がります。夏場はもともとの室温や粉の温度が高いため、通常通りに捏ねていると、あっという間に生地温度が上昇してしまいます。仕込み水に氷水を使用し、捏ね時間を少し短めに設定して、生地の温度が上がりすぎないようにコントロールしましょう。また、発酵の初期段階だけを室温で確認し、その後は冷蔵庫を活用してゆっくりと発酵させる方法が有効です。
夏におすすめのパンの種類と家庭での保存対策
夏の暑い日には、パンの選び方や食べ方、そして保存方法にも季節に合わせた一工夫を加えることで、より美味しく安全に楽しむことができます。
冷やして美味しいパンの種類とスイーツパンの製法
夏にぜひ試していただきたいのが、冷蔵庫でしっかりと冷やしてから食べる「冷やして美味しいパン」です。特にカスタードクリームや生クリーム、フルーツをあしらったスイーツパンは、ひんやりとしたデザート感覚で楽しめます。
一般的に、パンを冷蔵庫に入れるとデンプンが乾燥して硬くなってしまいますが、冷やしても固くなりにくい製法で作られたパンは、冷たい状態でもしっとりとした食感を保ちます。その秘密は、生地に生クリームや牛乳、卵、バターなどの油脂分や糖分を贅沢に配合することです。これにより、デンプンの老化が遅くなり、冷蔵庫に入れてもなめらかな口当たりをキープできます。暑い日の午後のおやつに、冷たいスイーツパンとアイスコーヒーの組み合わせは格別です。
ビールに合うハード系パンの種類とおつまみ製法
夏の夕涼み、冷えたビールのお供にパンを合わせるスタイルもおすすめです。特におつまみとして優秀なのが、フランスパンなどのハード系パンの種類です。
バゲットやベーコンエピ、チーズをたっぷりと焼き込んだハード系のパンは、噛みごたえがあり、小麦の豊かな香りがビールのホップの苦味を引き立てます。じっくりと時間をかけて発酵させる製法で作られたハード系パンは、皮がパリッと香ばしく、内側にはしっとりとした旨味が凝縮されています。薄くスライスして、オリーブオイルや塩、ガーリックバターを添えて軽くトーストするだけで、簡単で贅沢なおつまみが完成します。
焼きカレーパン(揚げない製法でカロリーオフ)
夏といえばスパイシーなカレーが恋しくなる季節ですが、油で揚げたカレーパンは少し重く感じられることもあります。そこでおすすめなのが、油で揚げずにオーブンで焼き上げる「焼きカレーパン」です。
揚げない製法で作られるため、脂っこさが抑えられて大幅なカロリーオフになります。生地の表面に薄くオリーブオイルを吹き付けたり、あらかじめ煎ったパン粉をまぶして焼き上げたりすることで、揚げたてのようなサクサク感を損なわずに仕上げることができます。スパイスの効いたカレーの味わいをダイレクトに感じられ、夏バテ気味の身体でもさっぱりと食べ進められるのが魅力です。
湯種食パンの夏対策!傷みやすい食パンの保存方法
小麦粉に熱湯を加えてデンプンを糊化させ、水分をたっぷりと抱き込ませる「湯種(ゆだね)製法」。この製法で作られる湯種食パンは、もっちりとした弾力と、しっとりした食感が長く続くため、多くの人に愛されています。
しかし、水分量が多いという特徴は、高温多湿な夏場においては「傷みやすい」という弱点にもなります。夏の発汗しやすい気候のなか、常温で何日も放置しておくと、カビが発生する原因になりかねません。
夏の効果的な対策・保存方法として、購入した当日や翌日に食べきれない分は、速やかに1枚ずつスライスしてラップで隙間なく包み、ジッパー付きの密閉袋に入れて冷凍庫で保存しましょう。凍った状態のまま余熱しておいたトースターで一気に焼き上げることで、内部の水分を閉じ込めたまま、外側はサクッと、内側は湯種特有のもちもちとした食感を再現できます。
こねないパンの夏レシピと冷蔵庫発酵(オーバーナイト製法)
夏場に自宅でパン作りをしたいけれど、暑いキッチンで力仕事をするのは避けたいという方には、「こねないパン」の製法がぴったりです。
こねないパンは、ボウルの中で材料をスプーンやヘラでさっと混ぜ合わせるだけで、捏ねる作業を一切行いません。その代わりに、時間をかけてグルテンを自然につなぎ合わせます。この製法は、冷蔵庫発酵(オーバーナイト製法)と非常に相性が良いです。
生地を混ぜ合わせたら、密閉容器に入れてそのまま冷蔵庫の野菜室などの低温環境で一晩(約12時間から18時間の冷蔵発酵時間)寝かせます。低い温度でゆっくりと発酵させるため、夏の室温での過発酵を防ぐことができ、さらに小麦粉の芯まで水分がしっかりと浸透します。翌朝、生地を優しく成形してオーブンで焼くだけで、外はパリッと、中はしっとりとした味わい深いパンが焼き上がります。夏のパン作りのストレスを大幅に軽減してくれる、賢い製法です。
The 884 Bakeryのパンへのこだわり
福岡県北九州市戸畑区、JR戸畑駅から歩いて5分ほどの場所に位置する「The 884 Bakery(ジ・ハチハチヨン・ベーカリー)」です。
パン職人としてのキャリアを17年重ねてきたオーナーが、日々、その日の気候や生地の状態に合わせて、一つ一つのパンを丁寧に焼き上げています。
私たちは、「美味しいのは当たり前」という強い信念を胸に抱き、常に一歩先のおいしさを追求しています。私たちのパン作りにおいて欠かせないプロセスは、時計の針だけを頼りにするのではなく、まるでパンと「会話する」ように、生地が発する小さな変化や声に五感を使って耳を傾けることです。気温や湿度の変化が激しい夏場でも、その日その時に適した発酵具合を見極め、最高の状態でお届けできるよう努めています。
店頭には、多彩な種類のパンが並びます。ひんやり冷やしてもおいしい、なめらかなカスタードを包んだクリームパンや、昔ながらの優しい甘さのあんぱん、独特の引きがあってもちもち食感のベーグル、バターの香りが幾重にも広がるミニクロワッサン、そしてパリッとした皮の風味を堪能できる本格的なフランスパンをご用意しています。
さらに、具材をたっぷりと挟んだ満足感のあるサンドイッチや、お子様にも大人気のサクサクとしたメロンパン、そしてお酒のおつまみにもぴったりな、噛むほどに旨味が滲み出る明太フランスなど、惣菜パンから菓子パンまで、訪れるたびに新しいお気に入りが見つかるラインナップを揃えております。
私たちは、パンそのものはもちろんのこと、お買い物をしていただく時間そのものが特別なものとなるよう、心地よい空間づくりを大切にしています。お探しのパンや、おすすめの食べ方などがございましたら、どうぞお気軽にお声がけください。パンが主役となる、さりげなくも温かいおもてなしで皆様をお迎えいたします。
北九州市戸畑区へお越しの方や、毎日の食卓に小さな幸せを添えたいとお考えの方は、ぜひ The 884 Bakery へ足を運んでみてください。私たちの想いが詰まったパンたちが、皆様の食卓に笑顔をお届けします。


